新生日本代表チームのお披露目となったこの大会。ジェリコ以来の外国人監督、若手とベテランの混在、機動力を重視したメンバー、帰化選手の候補入りは無し、など興味をそそられる要素はたくさんあったが、とにかくアジア大会への切符を手に入れてもらうことだけを願いながらテレビで観戦した。
結果日本は2位に入り、アジア大会出場権の切符を手に入れることができた。新しいヘッドコーチ(以下HC)のもと、わずか2カ月の合宿とトレーニングで中国、台湾、モンゴルを下し、実力で準優勝したという事実は素直に素晴らしいことだと思う。
これまでの代表チームに比べると、最近の代表チームは国際試合が明らかに減っている。親善試合もないし、キリンカップもなくなってしまった。それだけにこういう大会は実力を計るめったにない機会であり、収穫も多かったはずだ。僕もいくつか気付いた点があったが、挙げだすときりがないので4点だけここに書いてみたいと思う。
■スクリーンプレイ
はっきり言って日本のスクリーンはほとんど相手選手を止めきれていない。それはスクリーナーが下手なわけではなく、かけてもらう選手がスクリーナーにブラッシング(こすりつけるように走る)していないからだ。だから相手選手はスクリーンにかかることもなく、ファイトオーバーしなくてもすり抜けてしまう。
スクリーナーもスクリーンをかけた後の動きに問題がある。ピック&ロールで言うと、スクリーナーはスクリーンをかけた後、かけた相手選手をシールしてゴール方向に体を開き、2対1の状況を作るのが基本だ。しかし日本選手はそれをしないので結局1対2の不利な状況になってしまう。スクリーンは韓国のような激しいディフェンスをするチームや、体格差のあるチーム相手には特に必要なプレーになるはず。もう一度基本から練習しなおしてほしい。
■視線
ディフェンスの時に、相手選手のボールマンに視線を奪われて、自分のマークマンを見失う時がある。台湾戦では柏木が何度も自分のマークマンを見失い、裏に走りこまれてレイアップを許した。韓国戦2Qの3分過ぎには、#5イが左からゴール下にドライブした時に、桜井以外の選手すべてがゴール下に向かってしまった。その結果、ゴール下から右45度にパスアウトされ、桜井が飛びつくもさらにトップにパスされ、余裕で3Pを決められた。
全く同じような逆のシチュエーションが3Qにあった。3分過ぎ、五十嵐が左からゴール下にドライブした際、一瞬韓国ディフェンスはゴール下に収縮しそうになったが、自分のマークマンから目を離すことはなかった。そして五十嵐から右45度の桜井にパスが渡ったが、#12ヤンと#4チュが戻り(このときチュは右0度にいた折茂のケアもしていた)、桜井は3Pシュートを落とした。
一人の日本選手が韓国選手全員の視線を奪っていた瞬間もあった。カウンターで五十嵐がボールを持って走りだした瞬間だ。この状態は数秒続いた。つまり、韓国選手全員が、五十嵐の速攻を警戒していたわけだ。このことに日本チームが気付いていたら、他の選手達が裏を取る動きをしていたら、五十嵐のレイアップだけでなく合わせのプレーなどもたくさんできて、韓国にプレッシャーを与えることができただろう。
ゲームが接戦になるほど、ディフェンス時にもオフェンス時にもこの視線というものは重要になってくる。ディフェンスではピストルディフェンスで自分のマークマンとボールマンをチェックし、オフェンスでは相手選手の死角に動くなど、基本的なことを再確認してほしい。
■きれいなバスケットをしようとしてはいないか
JBLでは、アイシンを例に挙げると帰化選手がいて外国人選手がいて竹内(公)がいるので、とりあえず3人のどこかにボールを落としてから展開するということができる。しかし国際大会となると相手も死ぬ気でプレッシャーをかけてくるので、そんなに簡単にはいかない。
スターティングの選手たち、特にアイシンの3人は、ボールを回しながら形を作って攻めるというJBLと同じ動きをしていたように見えた。しかし、相手選手はディナイしてパスコースを塞ぎ、横パスのカットを狙い、時間を消費させ、ターンノーバーを増やしていった。JBLと国際大会は違うということだ。
そんな手詰まりの状況を打開したのが、竹内(公、譲)や石崎のドライブ、五十嵐や桜井の速攻といった縦の攻撃だった。がむしゃらにゴールに向かっていくプレーが相手のファイルを誘い、得点に結びついていた。こういう貪欲なプレーをもっと増やしていかないと、きれいなバスケだけでは勝つことはできないだろう。
■状況に応じた判断を
決勝戦後ホッブスHCは「選手達はよくやった。ベンチワークがうまくいかなかった。自分の責任だ。」と言った。そのとおりだと思う。しかし責任はHCだけにあるわけではない。
相手の戦力、ジャッジの基準、試合の流れ、有利点不利点、体力比、ファウルの数、残り時間を常に考えながらプレーすることはとても大切なことだ。決勝戦では韓国は6点リードした4Q残り5分あたりから、試合のペースを落とし始めた。ここからの#9チュのゲームメイクは素晴らしく、日本はすっかりその術中に落ちた。
日本は6点ビハインド、体力も集中力も落ちてはいるがファウルは稼いでいる、という状況を鑑みれば、柏木は速い展開で縦の攻撃を仕掛けるべきだった。しかし柏木は韓国が落としたペースにはまってしまい、マッチアップゾーンを攻めきれず、ただボールをまわして時間を消費し、外からのシュートを打たされてリバウンドを取られ、ディフェンスリバウンドも取れず、さらにオフェンスで時間を使われた挙句3Pを決められるという悪循環に陥った。
このときコートに立っていた5人のスターティングメンバーは、自分達の力で打開するべきだったができなかった。ならばベンチが動くべきだった。「40分集中できるチームはない。リズムが悪くなったときにはタイムアウトを取るなどして、状況を改善するのはベンチの仕事だよ。」というのはトム・ホーバス(トヨタ→アトランタ→東芝)の言葉だ。もしかしたらHCはこのスタメンがどれだけできるのか見極めようとしていたのかもしれないが、天津ではベンチと選手の両方が上手く立ち回れることに期待したい。
以上、書いてみると「なんだそんな基本的なこと今更」と思われても仕方がないことばかりだが、その「基本的なこと」の練習をどこのチームもいやと言うほどやっていることを僕は知っている。ヤオミンだってワンジジだって、「びっくりするほど基本的な動き」の確認を試合前にしていることを、僕は福岡、大阪、上海で見てきた。
アジア大会本戦まであと2ヶ月を切ったがまだ時間はある。東アジア大会で得たものはたくさんあるはずだ。修正すべき点は修正し、是非世界大会への切符を手に入れてもらいたい、と心から願う。