バスケットボールオールジャパン準決勝第2試合、和歌山トライアンズVS東芝ブレイブサンダース。71-71の同点で迎えた残り0.7秒、栗原のスローインをローポストで受けたファジーカスはターンアラウンドシュートを放ち、リカートの頭上を山なりに飛んだボールは、ノータッチでリングに吸い込まれた。ブザービーターショットが決まり東芝が勝利。大歓声が会場を包み、抱き合って喜ぶ東芝の選手たち。その少し離れた場所、サイドライン付近に、膝から崩れ落ちた栗原の姿があった。

このオールジャパン、栗原は明らかに調子を落としていた。シーズン中42%の確率で入っていた3Pシュートは、豊田通商戦、東海大戦で合計9本打って1本しか入っていない。同様に調子を落としていた辻は復調の兆しを見せ、篠山も好調ではないにせよそれなりに結果を残している。しかし自分は目に見える結果は出せていない、そんな焦りがあったのではないだろうか。

準決勝の和歌山戦、和歌山に先手を取られたものの東芝は、第3ピリオドに追い上げ第4ピリオド残り4分に13点差までリードを広げる。しかし和歌山も木下と川村の連続3Pシュートで一気に追い上げ、71-68の3点差まで迫った。

両チームがタイムアウト取得後、残り8秒、東芝のオフェンスから試合再開。栗原が放ったスローインは和歌山の厳しいマークに会う大西との息が合わずラインを割ってしまい、まさかのターンノーバーとなる。首の皮一枚繋がった和歌山は残り0.7秒、 木下の3Pシュートでついに71-71の同点に追いつく。

流れは完全に和歌山。この日何本も川村に3Pシュートを決められ、勝負所でターンノーバーを出してしまった栗原は、これで負けたら自分の責任だと思っていただろう。しかも北HCが指示した最後のセットプレーは、またも自分のスローインから始まる。彼の重圧は極限まで達していたに違いない。

残り0.7秒で試合再開。栗原がパスを出した相手は、ダブルスクリーンでフラッシュしておとりになった辻ではなく、ファジーカスだった。ボールをローポストで受けたファジーカスはターンアラウンドシュートを放ち、リカートの頭上を山なりに飛んだボールは、ノータッチでリングに吸い込まれた。

この瞬間、重圧から解放され感極まったのだろう。栗原は膝から崩れ落ちてそのままコートに頭を伏せ、泣きじゃくった。やがて平尾と大西が栗原の元に駆け寄り、彼の両脇を支え、全員で整列して声援に応えた。栗原はまだ泣いていた。

バスケットボールはチームで戦うスポーツだ。調子を崩していてもチームメイトがフォローしてくれる。篠山、辻、栗原が調子を落としても、山下、宇田、大西が支えてくれる。ファジーカスが決めてくれる。ワンプレーで形勢を逆転するプランをHCが瞬時に考えてくれる。コート上の選手もベンチの選手もスタッフも一体になって戦うチームの強さがあるからこそ、若い選手が試練を乗り越えて成長できるのだ。あらためてそう感じたゲームだった。

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