2015年5月に行われたPTNAピアノステップを次女が受けた際に、アドバイザーの石黒加須美先生 から講評を頂いたのですが、とても心に響いたので、忘れることのないように残しておきたいと思います。

この日のステップは、全国で一斉に始まるPTNAピアノコンペティション予選の直前に行われたということで、コンペ前の調整として課題曲で参加する人が多かったです。ですからこのグループでの講評は、コンペ参加に沿ったものとなっています。

文字にしてしまうと先生のお言葉のニュアンスが伝わらないのが残念ですが、それはその場で聞くことのできた人だけの宝物、ということにしておきたいと思います。

ishiguro

「今日は本当に頑張っている方々の演奏を聞かせていただきました。私もとってもたくさんのコンクールの生徒を抱えています。なのに毎週毎週こうやって出歩いているので、全くレッスンせずに待っている子供たちが心配になってしまいます。私はこんなところで書いている場合なんでしょうかと思いながら・・・

本当に皆さん素晴らしいですよ。今(コンペに)出ても大丈夫なくらいな方々も見えました。さぞかし素敵な先生方にいいレッスンを受けていらっしゃるなと思いました。

じゃあ講評を、となると、私は「コンクールです」「受験です」と言われると躍起になって書いてしまうタイプなので、本当にご注意ばかりを書いて申し訳ないのですが、少しでも皆さんの足しになればと思いますので、暖かく読んでいただければと思います。

前の回でもそうでしたが、(アドバイザーへの質問コメントに)「どうしたら上手になるでしょう?」「一番効率のいい練習方法を教えてください」、と書かれた方がいらっしゃいました。

私はすかさず「耳です」と答えます。私の生徒には「耳を使って練習してください」と伝えます。

どうかいい耳を持って、そしてその前には、いいイメージを持って、そしてその前には、いい理論、裏付けをきちっと持って練習してください。

言い直すと、「私は何の時代のどの作曲家の曲を弾いていますか?」そして、「どんな奏法が必要な曲を弾いていますか?」ということを、きちっと分析したうえで、あるいは先生から教えていただいた上で、どんなイメージを持って、どんな自分の中の物語を持って、あるいはどんな楽器、音色を持って弾きたいかという、しっかりとしたイメージを持って下さい。そしてしっかりとした準備を持って、第一音からきちっと弾き出してください。

そして最後はいい耳を持って、本当に自分がそれにふさわしい音を第一音目から出しているのか、ということについて聞き取る耳を持ってください。

中には、「あがってしまってしまって」とか、「舞台に出ると本領を発揮できなくて」、と言われている方がおられました。私は、これ全てが頭を使って弾いていないからだと思います。指だけを使って弾く癖をつけてしまうと、本番でちょっとした環境が違っていても真っ白になってしまいます。でも、脳みそは真っ白にはなりません。脳はちょこっとくらいドキドキした方がいいんです。アドレナリンが出て。

どんなピアニストでもあがらないピアニストはいませんよ。どんな素晴らしいピアニストでも、弾く前にはドキドキします。だから集中力を持っていい演奏ができるんですよ。

どうぞドキドキしてください。どうぞあがってください。でも、脳まで訳がわかんなくなっちゃったら困るんですね。つまり、脳みそを使って普段から練習してください、ということです。

その為によく私が生徒に言うことは、「自分が弾きたいテンポはいくつ?」ということです。私はかなり早めから、「このテンポで弾いてほしい」と生徒にははっきり伝えておきます。そうしたらそのテンポの半分、もし私が120と伝えたら、60のテンポで片手ずつきちっと弾いてください。そこで、どのくらいの音量が必要なのか、響きが必要なのかを探ってください。

もう一つ気を付けなくちゃいけないのは、タッチスピードまでゆっくりになっちゃったら話にならないんですね。テンポは60なだけで、タッチスピードは120のタッチスピードなのです。ここが大切です。

よく私達がコンクールで審査させていただくときに、タッチが重い、あるいは音が飛んでこない、あるいはハーモニーが広がってこない、等いろいろあります。

“p”はただの小さい音じゃないです。「なに、あなたその辺で野垂れ死んでるの?」そんな音じゃないです。「おなかが空いて死にそう?」そんな音じゃないです。非常に遠くで生き生きと踊っているのがわかる、これが”p”です

例えば「きりん(田中カレン作曲、組曲”星のどうぶつたち”の1曲。2015年コンペB級の課題曲)」。”p”、”pp”があります。じゃあそれは、すごーく遠くのキリン座から光が私達に届いている、そんな音ですよね。決してそれは、小さないい加減な音じゃない

だから、そのイメージをきちっと持ったうえで、言われるテンポの半分で、自分の脳みそできちっと命令してタッチしてください。これを両方とも、左なら左、右なら右です。

そしてそれは、音楽的には非常に無理です。ですからその1.5倍、120なら90で音楽的な流れをもってどこまでを一息で行くのか。ゆっくり弾くことが丁寧ということではありません。ちゃんとフレーズを持って、そこまでが一息で弾けるテンポ感が無ければ、流れも出てきません

ですので、こういうことをきちんと考えられたうえでの練習をされれば、非常に短い時間でも、効率よく上手になるはずです。どうか、短い時間でとても上手になるという演奏方法を身に着けていただきたい。

だって、上に行けば行くほどやらなければいけないこといっぱいあります。上に行くにつれて音数も増え、曲も長くなり、大曲になります。何回も練習すれば上手になる?なりませんよ。変な練習したら練習した分だけ下手になります

もうみなさんこれだけ仕上がってるんですから、全国大会みんな行けます!どうか、素敵な練習をして素敵な演奏を目指してください。本日は私も本当にたくさんの勉強をさせていただきました。ありがとうございました。」