■第3ピリオド
後半の先手を取ったのはパナだった。オバノンがバスケットカウントのジャンプショットを決めると、会場から大歓声が沸いた。しかし残り第3ピリオド8分34秒、桜木をマークしていた青野が3つ目のファウルを犯してしまい、大西と交代した。ここから徐々にパナソニックのリズムが良くなる。
パナ広瀬は、マークされていた朝山が3つ目のファウルで高島と交代した途端一気に8得点し、大西の3Pと合わせて点差を13点に戻した。すぐさまアイシンは朝山を戻し、広瀬をマークさせた。この日朝山は、広瀬を抑えることを命じられていたのか、広瀬をかなりべったりマークしていた。そのせいかボールのないところでの小競り合いが多く、一触即発ムードだった。
第3ピリオド残り4分34秒、ボールの無い所で広瀬と朝山が接触し、広瀬がオフェンスファウルを取られた。その直前にも小競り合いをしていたところを見ていたので、朝山がわざと倒されたようにも見えた。ダブルファウルを取ってもいい場面だと思った。しかし副審のジャッジはオフェンスファウルだった。このピリオド6つ目のチームファウルを取られたパナは、またもアイシンにフリースローを与えてしまった。3つ目のファウルを取られた広瀬は、永山と交代した。
第3ピリオド残り4分半、チームファウルは6つ、点差は14点、相手はアイシン。パナにとっては厳しいというしかない状況だったが、大西、木下、オバノンが得点し、点差を一桁まで戻した。パナ金丸は厳しいマークに合いながらも冷静にファウルを誘い、アイシンからファウルと得点を削っていった。50-59の9点差で第3ピリオドは終了した。
■第4ピリオド
第4ピリオド、アイシンはリチャードソンに替えてヤング、パナは大西に替えて青野をコートに戻した。開始直後にアイシン橋本が木下から得たフリースローを沈めて50-61と点差を再び二桁に戻すが、パナ永山が3Pシュートを沈め点差を8点にすると、会場から大歓声が起こった。
しかし永山は長くゲームから離れていたせいか動きがかみ合っておらず、木下とポジションが重なってしまうこともあった。加えてパナは疲労からか動きが極端に鈍くなり、ディフェンスリバウンドを取っても3番、4番、5番の選手の攻撃参加が遅くなっていた。フレキシブルに動いて攻撃するパナのスタイルが出せるはずもなく、結局は無理なシュートを打つしかなかった。
足の止まったパナに追い打ちをかけるようにアイシンのディフェンスは厳しくなり、青野がハイポストでボールを持ってもパスを出せる選手がいなくなってしまった。桜木は青野がそこでターンしてジャンプショットを打たないことも見透かしており、パナが何もできずに時間だけが過ぎるのを待っていた。第4ピリオド残り1分で点差が9点となったところで、パナは最後のタイムアウトを取った。
清水監督の指示は、攻撃をしないことがばれている青野に攻撃をさせて、その後はファウルゲームに持ち込むことだったようだ。しかし、体力が限界に近い青野に、桜木相手の1on1をさせるのは酷なことだった。青野がお手玉したボールを桜木が奪い、桜木に対してファウルをしたことで青野は5ファウルで退場となった。
ファウルゲームに最後の望みを繋いだパナだったが、すでに体力が限界に近いこともあり、確実にフリースローを沈めるアイシンに追いつくことはできなかった。64-76でアイシンが勝利し、ファイナルへの切符を手に入れた。
■笛に泣いたパナソニック
このゲームでパナが取られたファウルの数は28、アイシンの倍だ。最後ファウルゲームになったことを考えても多すぎる。パナは第2ピリオドと第3ピリオドには早々に5ファウルを宣告されてしまい、思うように動けなかったことだろう。そのせいでフラストレーションも疲労も溜まっていったに違いない。
JBLがプレーオフで外国人のレフェリーにジャッジさせる理由は、レベルの高いジャッジングを求めてのことかもしれない。しかし、あまりにもレギュラーシーズンと違う笛が吹かれるのはどうだろうか。副審も釣られて主審と同じように吹いていたが、あんた達はレギュラーシーズンでそれ流してたでしょ?って言いたくなった。パナの荒いバスケを肯定するわけでも肩を持つわけでもないが、あれではあまりにも可哀想だと思った。逆にレギュラーシーズンからきちんとジャッジできるように、日本人審判団はレベルアップしてもらいたいものだ。
■勝ち方を知っていたアイシン
バスケットボールに限ったことではないが、相手チームとの実力差が拮抗している場合、作戦(ここではオプションを指す)や技術だけで勝つことは難しい。相手の気持ちになり、相手が嫌がることをして実力を発揮させないことが勝利へと繋る。アイシンはそれを知っている。だからこそ強いのだ。
今回アイシンは、パナの機動力を止めることにポイントを置いていたと思う。青野にヤングを付けて肉弾戦をさせて消耗させる。広瀬にボールを持たせたらドライブとファウルを狙われるので、べったりついてボールを持たせない。オフェンスでは動きすぎないで体力の消耗を控える。ボールを回してディフェンスを振り回し消耗させる。ボールのないところで小競り合いを仕掛け、フラストレーションを溜めさせてファウルを犯させる。
パナは思うように動けないことで、パスを回せず、シュート確率が落ち、リバウンドが取れず、体力と精神力を消耗し、自分たちのバスケットができなくなってしまった。エース・カスタスは得点0に終わった。
アイシンの選手一人一人がゲームの流れとその局面ごとに、今何をしたら相手が嫌がるかということを理解してプレーしている。しかもそれに高い技術が備わっている。それは、自滅しない限り揺るがない。これがアイシンの強さだと思う。東芝の選手に身につけてほしいと常々思っていることなのだが、若いチームには難しいことなのだろうか。
■国破れて
ゲーム終了後、目を赤く腫らしながらパナの選手たちが観客とハイタッチをして回っていた。1ゲームで優勝への道が途絶え、完全にシーズンが終わってしまった戦士たちの悲しむ姿を見て、ああ何度も見た光景だなあと、東芝がアイシンやいすゞに何度も叩きのめされたことを思い出した。カスタスの落ち込みようは物凄く、なんと声を掛けて良いかさえ分からなかった。
パナはホームでの最終戦ということで、選手たちがクールダウン後、会場の外で待つファンたちと握手や記念撮影するために出てきてくれた。チャックと少し会話をした。「俺はベストを尽くした。また来年トライするよ。」と言ってくれたことが救いだった。来シーズンは帰化して日本人選手になるのだろうか。いずれにせよ、東芝とパナのファイナルが観たいと思う。「また来シーズン」と言って別れた。帰り道に咲いていた夜桜が美しかった。